夢のまま




 よくもまあ、化けたものだ。シュラは今回の「連れ」である乙女座の変装(?)姿にまず度肝を
抜かれてそれっきりまともに口も聞けなくなった。
「…これは、まさかとは思うが、女人の格好ではないのかね?」
 閉じたままの目で不愉快そうに眉なぞ潜め、乙女座はぽつりと傍らの魚座に漏らす。アフロディ
ーテは、この手の支度に全く不得手な乙女座の世話役として、頭のてっぺんからそれこそつま先に
至るまで全てをコーディネートし、実際に着付けまで手伝ってやっていた。
 そうしてシャカが着せられたのは、白と紅を基調とした裾の長いクラシカルドレスだ。
「ほう、君でも判るか、そうだ、その通りだ」
 そういう魚座も、似たタイプのロングドレスを身に纏っている。ぬぬ、とシャカは更に表情を険
しくさせたが、アフロディーテは反論を防ぐためすかさず続けた。
「言っておくがこんなものを着せられるのは私だって不本意なのだ。しかし任務だ。勅命だ」
 勅命、とひとこと言えばシャカが黙らざるを得ないことも、魚座は良く知っている。自らを神に
最も近い男と公言する一方で、女神や教皇の御名に対しては異常なほど盲目的に従うのを、魚座は
いつも不思議に思うのだ。しかし余計なことは言わずに置く。
「東洋のことわざで「馬子にも衣装」ってな。何にせよおまえら二人とも、不気味に仕上がらなく
て良かったぜ。連れ歩く側としちゃ、ちったあマシなオンナに見えてくれなきゃこんなトコでやっ
てらんねえからよ」
 横で煙草をふかしつつ支度を待っていた蟹座がそう言って不敵に笑うのを、アフロディーテは呆
れた風で振り返った。
「誉めてるのかけなしてるのか判らんところだが、どちらにせよその言い種はむかつくぞ」
「は、素直に喜んどけ。顔が取り柄だって、なあシュラ」
「え、あ」
 いきなり話題をふられて、惚けたきりだったシュラはあわあわと口ごもった。その様子に蟹座は
更に不敵な笑みを深める。
「なんだ見とれてたのか。どっちにだ。しょうがねえヤツだな」
「いっ…いや、そんな…つもりは…ただ綺麗だなと…」
 シュラは必死で眼を逸らした。親しい同僚である魚座の変身ぶりもそれは見事で、思わずため息
をもらしてしまうほどだったが、滅多に同行しない珍しい乙女座が、有り得ない姿で間近に居るの
がシュラにはとにかく信じられなかった。これは夢か。
「あっいや、綺麗なのはいいことだと思うがそれだけで、それ以上の意味は無くて…」
 アフロディーテは、シュラの必死な弁解に淡く微笑してみせた。蟹と違ってこの山羊は堅物な部
分があるのが本当に可愛い。
「まあいいから、そろそろ会場の方に移動しよう。この通り、君の「連れ」も完成したし」
「連れ?」
 その言葉にはシャカが反応した。どうやら直前まで何も説明を受けていなかったものとみえる。
「ああ。言ってなかったか。このパーティー男女ペアオンリーてのが決まりなんだとよ。男二人に
偽物オンナ二人だ。ま、せいぜい仲悪く見えないよう振る舞え」
「なに!?」
 仲良く、の下りでシュラがまたあわわと狼狽えていたが、シャカはそれをすかっと無視して蟹座
に詰め寄った。
「このシャカに、格好のみならず振る舞いまで女人のようにしろと」
 蟹は含み笑いを崩さなかった。間近に寄ってきた乙女座の、思った以上に良い「出来映え」に満
足したのか軽く眼を細める。
「なーに応対はシュラにでも任せて黙ってつったってりゃいいんだ。仲良くしろってったって何も
マジになってべたくさやれってんじゃねえ。お前にダンスが踊れるとも思えねえし」
「…ペアが要るというのであれば、一組で十分だったであろう」
 こんな潜入調査に黄金が4名も無駄ではないか。そう言いかけると今度は魚座が畳みかける。
「犠牲になるのは私だけで十分だと? 冗談ではない。だいたい言っておくが今回の面子は教皇の
名指しだ。まったく、せっかく女の聖闘士も居るのに仮面を外せないからペアが組めないなどと…
仮面なんか取ってしまえばいいのに」
「仮面舞踏会の時には呼んでやれよ。ちょうどいいだろ」
「そんな奇ッ怪な舞踏会に潜入調査する理由はない」
 魚座はぴしゃりと言って、それからシャカを睨んだ。
「往生際が悪いぞシャカ。任務だと思ってさくさく割り切れ」



 もともと、大抵のことにはなすがまま体質のシャカだ。結局命令と言われて反論もできなくなっ
た後、いかにもおそるおそるといった様子のシュラにエスコートされ、パーティーの催される大き
な広間に出てきていた。
 任務の内容については当然来る前に説明は受けていた。聖域と秘密裏に関係の深い要人たち数名
の護衛、それから「裏切り者」の後始末。かつてどこぞの地域で聖衣を授与される寸前までいった
者たちがここ数年暗殺者として動いているらしい、と聞いた。聖闘士には聖闘士を、と教皇は迷わ
ず黄金を駆り出したのだ。たんなる処刑であれば白銀でも十分用が足りたのだろうが、失敗の許さ
れない場面とあって、あえて4名も黄金を出したのだろう。
 もっとも、教皇にしてみればこんな任務も冗談交じりなのかもしれない。
「…あ、暑いな…暖房ききすぎてるのかな…」
 シュラは、さっそく慣れない相手と二人きりにされてさっきから猛烈に落ち着かない様子だ。そ
んなシュラの様子をシャカは飄然とみやって、内心でため息。
「襟元がキツイのであろう。少し緩めたらどうだ」
「そ、そうか…いや、しかしまだ来たばかりで崩しても…」
「蟹なぞは初めから留めてもおらなんだぞ」
 言いながら、ついと会場内を見渡し、すばやく同僚たちの位置を確かめる。蟹と魚はお互いぶつ
くさと文句を言い合いつつも結構仲良くやっていた。ほっそりした魚座のドレス姿は、なるほど他
の出席者に比べてもまったく見劣りしない…どころか恐ろしく際だって美しい。シャカは美醜にほ
とんどと言っていいくらいこだわらないタチだが、それでも魚座の姿はなかなかに感心した。
(ああいうのを開き直りとでも言うのか…)
 ドレスはイヤだと愚痴っていた魚座だが、実際には呆れるほど「なりきって」いて、蟹もそんな
乗り気の魚に悪くない様子だ。仲が良いのだな、とぼんやり思って、それから不意に自分の思考に
驚く。…誰が誰と仲が良くても自分には関係ない…筈なのに。
(教皇は私を名指しだと言っていた。ということは…今頃玉座で私のこんなナリを想像し、笑って
おられるのだろう…)
 教皇に対して絶対服従の態度を崩さない乙女座だが、実は心中複雑この上ない。
 聖域で女神の地上代行者として君臨するかの教皇──彼は公務には非常に勤勉でまったく否のう
ちどころがない「上司」であるが、プライベートではひっそりシャカに「夜伽」を命じてくるよう
な裏表の激しい人物だった。
 始めに不意打ちさえくらわなければ、この自分がまさか娼婦みたいに扱われることなど無かった
だろうに、と今でも思う。そういう考えても仕方のない後悔の念をシャカはとても嫌っていて、だ
から滅多に思い出さないようにはしているのだが。
 こんな風に女のように扱われると、つい思い出してしまう。
(肉体のことなど、どうでもいいと諦めたつもりが、…愚かなものだな…)
 教皇の手を拒むべきではないか、と何処かで判ってはいた。それに、多分一番良くないパターン
のような気もしていた。しかし実際には拒む気概は拍子抜けするくらい全く無くて、ただ闇雲に事
態だけが悪化した。それでもシャカは、教皇を「教皇」だと信じていた。
 …本当は、気が付いていたのかもしれないけれど。…教皇が、いや聖域全体が何かとてつもなく
食い違っていることに。
「目を…おまえが」
 シュラがぽつりと口を開いたので、シャカははたと振り向く。余計な思考に沈んでしまっていた
ようだ。シュラはすらりとした非常な長身を黒っぽいパーティースーツに包み、蟹に負けず劣らず
見事な男前を披露していた。それを見て、シャカはぼんやりと「自分もスーツの方がまだしもマシ
だったかな」とボケた感想を抱く。
「目を開いているのを、もしかしたら初めて見たかもしれん」
「そうだったかね」
 シャカはどうでもよさそうに答えた。シュラがどきまぎと慌てて言い添える。
「も、もしかしたらうんと小さい頃に見たのかもしれんが忘れてしまっていた。…青いのだな」
 シャカにしてみれば、目が青かろうが赤かろうがどうでもいいことなのだが、あえて余計な口出
しはやめて軽く頷いてやった。
「盲目と思われるから目を開けろと言われたのでな…」
 言って、遠くをふと見やる。目を開けていると視界にびっくりするほど雑多な情報が流れ込んで
きて、逆に辺りの気配を読みとり辛い気がする。まばたきの間に、なるべく長く目を閉じて。
 …そうして、またゆっくりと開けると、シュラが唖然とした顔でシャカを見つめていた。
「なにか、私の顔についているかね」
「あっ…わ、いや、な、なんでもない! すまん!」
 おかしなヤツだ、という態度を隠しもせずシャカはため息を漏らした。
「少し静かな場所を探す。君はその間食事でもしていたまえ」
「え? あ。シャカ?」
「幸いテーブルに食い物が山と積まれている。気晴らしにまず食うがよかろう」
 シャカは、言い置いてその場をするりと離れた。ホールは既に人の波で溢れ、煩いくらいの喧噪
が渦を巻くほどだった。乙女座にはこの場所はさぞ辛いだろう。
 しかし、一人にして大丈夫なのか。シュラはしばし猛烈に焦る。
「…ううぬ…本当に勝手がわからん…」



 シュラはシャカの後を、少しだけ離れてついていくことにした。
 いかにも人慣れしていなそうな性格だから、一人の時間が欲しいのかもしれない。そう思うと無
理についていくのは躊躇われ、かと言って目を離すには危なすぎる。身の危険がどうの、という点
に於いては全くもって(多分十二宮内で一番)問題のない聖闘士ではあるのだが、世俗に疎すぎて
どうでもいような雑事が却って危なそうなのだ。
(だいたい見かけがアレだしな…)
 魚座の艶やか(笑)な姿も相当だが、シャカも負けず劣らずの美女に変身中、である。既に周り
の男たちがちらちらとよからぬ視線を交わしていて、とても放ってはおけなかった。こんな場所で
機嫌が傾き、天舞宝輪などぶちかまされたらたまらない。尻拭いに駆け回るのは絶対に自分たちな
のだから。
 シャカはのんびりとした歩調で回廊まで出た。そちらも人が居たが、ホール内の熱気と喧噪に疲
れて出てきた者ばかりらしく、まだしも少しは静かだった。シャカは適当な柱の影に寄りかかって
休憩した。まさしく壁の花、ならぬ柱の花だった。
 シュラもまた、適当に少し距離を取って壁にもたれかかる。視界の隅にちらとシャカを確認し、
その見事な美人ぶりにまた顔を紅くした。
(アレが男だと言われたら、知らない者なら怒るだろうな…)
 ひきずるほど裾の長いふんわりしたドレス。ウエストは結構絞り込まれていて、更に胸を強調す
るようなデザインになっている。(あのウソ胸にはパットが3枚も入っていることをシュラはさき
ほど控えの客間で知った。ついでに言うならあのシャカが悲鳴を漏らすほどスゴイ勢いで蟹がコル
セットを締め上げていたのも)
 淡い白金の髪はゆるめにひとつでまとめあげられ、白いうなじがほっそりと折れそうだ。喉仏を
隠すのにドレスと同じ生地の太いチョーカーを首に巻いた際、「こんな首輪は要らぬ」と言って魚
座に「首輪とは何だ」と怒鳴られていたのも見た。
 それらを見てもなお、目の前でぼんやりと時間を潰す金髪美女の中身が実は見知った同僚の男で
あると、シュラはイマイチ現実を把握できないでいる。
(…ん?)
 不意に、ふわ、と視界の隅に映したままのドレス姿が揺れ動いた。もたれていた柱から背を離し
たのだろう。と同時に数人の黒い影も見えて、シュラはがばと振り向く。
 若い男が3人ほど、シャカを取り囲んでなにやら話しかけていた。助けてやるべきだろうか、と
シュラも背を浮かし、身構える。と、その前に男達の輪からするりとこともなげに白い姿が滑り出
てこちらに向かってきた。
「…私の連れだ」
 言って、なんとシャカは自ずからシュラの腕に縋ってきた。想像外のコトにシュラが内心で壮絶
うろたえているうちに、男達は「なんだ」とつまらなそうに散って行く。さすがに名家の集いとい
うだけあって、仮にも招待客相手に不埒な振る舞いはできないようだ。となると、シュラが思って
いたよりも(任務以外では)ずっと安全な場所のようだった。
「…大丈夫か」
 言うべき言葉が見つからないので、とりあえずそれだけシュラは言った。シャカは相変わらず飄
然とした顔で、縋っていた腕をするんとほどくとまた適当な壁にもたれかかる。
「どうせついてきたなら、もう少し近くにいたまえ」
「気付いてたのか…」
「気付かぬ訳もあるまい。…私の守をするのは面倒なのだろうが、任務なのだろう」
 え、とシュラは驚きの視線でみやる。面倒? 誰が…誰の?
「面倒だ、などと誰が言った? そんなことはないぞ」
「しかし君はずっと遠巻きにしていた。態度もおかしかったし」
「…ッ! それはお前が一人になりたいだろうと思って邪魔にならないように…!」
 そこまで言って、シュラは、もしかして自分はスゴイ思い違いをしていたのだろうか?とやっと
思い当たる。シャカは表情が無いので不機嫌かそうでないかの区別がつかないのだ。
 となると、さっきの「食事」うんぬんのやりとりも、シャカ当人ではなくむしろシュラに気を遣
って席を離れたのかも…しれない。
「…お前が、なんかびっくりするほど綺麗になっていたので柄にも無くあわててしまったのだ。そ
れだけだ。お前とペアになって面倒だとか、そんなことは欠片も思ったことはない」
 シャカも、自分が余計な気遣いをしたと気が付いたようだった。はあ、とため息。
「…ならば良い」


 広間に戻ろうか、とシュラが持ちかけたがシャカは「もう少し」と言ってその場を離れようとは
しなかった。奇妙に思って問い質すと、シャカはつまらなそうに答える。
「背骨が砕けるかと思うくらい締め付けられていて、早く帰りたい」
 シュラはその答えには苦笑した。そりゃあそうだろう。
「世の中の女とは見えないところで随分と苦しい思いをしているのだな…少し見直した」
「そんな風にお前に見直されてもなぁ」
 回廊を、幾人もの客や、或いは小間使いが通り過ぎる。二人の距離が不自然に空いているのが気
になるのか皆ちらりと一瞥をくれていく。シュラは舌打ちして、仕方なくシャカを傍に引き寄せて
やった。怖がるかと思いきや、驚くほどに従順だった。細い肩を離し難くて、結局そのまま肩に手
を置いて、しばらく時を待った。
「…教皇が…」
 シャカは不用意にぽろりと零した。シュラの表情が一瞬変わる。
「あの方はきっと今頃笑っていらっしゃるだろう。この私が女人のような格好でへろへろしている
のを想像しながら」
「…そうかもしれないな…」
 下手なことは言わず、シュラは適当に返した。
「笑って…そうして、どうでもいいようなことを蒸し返しては私をからかうのだ」
 言って、またため息を零す。
 シュラは、こんな風に雑談を漏らすシャカなぞ初めてお目に掛かったので、どう応対してよいか
判らず、結果「うん」とか「ああ」とか芸のない相づちばかり打った。シャカは、そのせいで逆に
饒舌になっているようだった。
「顔が…見えないのは…あまり気分のいいものではない…」
 教皇のマスクのことを言っているのだろう。シュラは頷く。
「顔を隠すのは…後ろ暗いところがある証拠だ。そう言ってやったら、常日頃目を閉じているくせ
に、と鼻で笑われた」
「そう言われれば、閉じているのにマスクは判るのか」
「こうして開けているときもあるではないか」
「それは…そうだが…」
 ふう、とシャカは大仰なため息をついた。どうやらコルセットがきつすぎるようだ。シュラは心
配そうに顔色を窺った。
「大丈夫か、何処か座るところがあれば…」
「ここでいい」
 言って、きゅ、とシュラの腕を掴む。その思いがけない強い指の力に、シュラは気圧されてその
まま硬直した。
 シャカは、幾度かまばたきした。見慣れない中世ヨーロッパ風の装飾が施された壁や天井の彫り
を眺めて今日はぜんたい夢のようだ、と思う。…血の臭いさえしなければ任務も忘れてしまうくら
いに。
<──私は、おまえを手放す気はない…>
 教皇が、含み笑いを交えつつシャカを抱く。抵抗する気力はとうに捨てた。任務と思い肉体のこ
とは諦めた。…そのつもりだった。それでも。
「顔は…見えている方が良い…」
 あくまでも顔を見せず教皇の法衣さえ脱ぐことはなく。抱かれている最中に自分だけがまるで玩
具のように弄ばれ一糸まとわぬ裸体に剥かれ…。
「髪…外していいだろうか」
「アフロディーテにどやされるぞ、せっかく綺麗にまとめたのに」
「しかしピンが当たって痛い」
 こらえ性がないな、とシュラが呆れて苦笑する脇で、シャカはぱらっと髪を解いてしまう。その
瞬間にふわと甘い芳香がシュラの鼻先をくすぐった。本当に女みたいだ、と思ったその矢先。
「…ッ…」
 シャカは、無意識にシュラの胸元に頭をすりよせていた。このところ日を空けず教皇の「夜のお
供」をしていたので人と密着することに慣れてしまったのだ。相手の顔が見えるという安心感も手
伝って、自然なつこい仕草になっていた。
「シャカ…?」
 緊迫しきった声に、シャカはようやく己の「間違い」に気付く。見ればシュラは耳まで真っ赤に
なって震えていた。しまったな、とシャカはするり、腕から外れる。
「…広間に戻ろう」
 気を取り直して、今度はシャカの方からそう言ってやる。が、シュラは答える前にいきなりシャ
カをもう一度引き寄せた。
「! なんだ!」
「おまえ……」
 シュラはわなわなと何か言いたげにしたが、結局言葉にはならず、ただぎゅっと抱きしめられて
しまった。…何か気付かれたろうか。同情? そんなものなら、要らない。
「離してくれたまえ」
「いやだ、と言ったら」
 珍しく強引だ。シャカは、多分己の「間違い」が山羊の「タガ」を外してしまったことに朧気な
がら気が付いた。それも、きっと自分が誘うような形で…。
「必要以上にべたべたと振る舞う必要はない、と蟹も言ったろう」
「必要なら、振る舞えるということだな、それは」




 山羊座も、また、今日という日を夢のように思っていた。
 ならば夢のままでいい。とにかく今この一瞬だけでも、わき上がる切ない衝動に任せてしまいた
い。乙女座が、己を許す限り。
 相手の細い肢体から力が完全に抜けるまできつく抱きしめ、くたりとなったところで半ば強引に
口づけた。相手が乙女座のシャカだという認識は不思議となかった。(ドレス姿なのだからなおさ
らだろう)シャカは、たじろぎつつも、嫌がらなかった。


            2004/12/19








一度はクリアしておこう女装ネタ。
ぶちきれ終わり。今日はこれで萌え満足。気が向いたら続き(最低)。
シュラ→シャカ・サガシャカ前提にて(最低)。話的には「目眩」の続き。