お兄さんの苦悩



「なんだ、随分早いおやすみだな」
 アイオロスが聖域から雑務を終えて帰宅すると、いつもなら出迎えてくれる弟の姿が今日
に限って見あたらなかった。代わりに奥の部屋から子供らの気配がする。
 どうやらシャカも戻っているらしい。まずはほっと一息。
「リア…?」
 子供部屋にはランプが煌々とともったままだった。ひょいとなにげなく覗いて、アイオロ
スは驚く。シャカが、弟アイオリアと同じベッドで仲良く寝ているのである。
 シャカを預かってそろそろ一月になるが、同じベッドでというのは今日が初めて見る光景
だった。…そういえば、寝顔自体、滅多に見られない気がする。
「アレ、兄さん? お帰り…」
「ああただいま…」
 更に珍しいことに、シャカは起きなかった。アイオリアだけが起きて、僅かに頭をもたげ
てくる。兄はあわててそれを止めた。シャカが共に起きてしまいそうでもったいなかったの
だ。
「いいから寝てろ。…いつのまに仲良しだな、リア」
「ン…だってこいつ、泣くんだ」
 また聞き捨てならないことを聞いた。アイオロスは目を細めた。
「そういえばね、兄さん、こいつ、シャカ。今日初めてオレの名前呼んでくれたよ」
「…そうか」
 自分に対してはあれほど人間味の失せた表情しか見せないシャカだが、どうやら弟に対し
てはまったく気構えしていないらしい。それを羨ましいとすら感じて、アイオロスはもう一
度、ゆっくりため息をついた。
(弟の方が、シャカのお守りが上手いとはね)
 いつもこんな風にいくとは限らないが、今日のところはいっぱしの保護者顔をさせてもま
あ構うまい。
「オレの名前呼んで、腹痛い訳でもないのにぱらぱら泣くから、だからオレ、きっとさみし
いんだと思って」
 決して自分が寂しかったからではない、と言外に言い張るような気配があるのは子供らし
い意地であろう。もちろんシャカが来る前までもちゃんと一人で留守番出来たし、心細さも
我慢できる程度にはアイオリアは「オトナ」だったのだが。
「…だから、だから、じゃあ一緒に寝てやるって、そんでこいつが「うん」って」
「そうか」
 アイオロスは、二人の頭を順に撫でた。シャカはそれでも起きなかった。
 やっと、安心して眠るようになってくれている。それがとても嬉しい。
「さあ、おやすみ。明日は半日休みだから、おまえたちに付き合うよ」
「ホント? よかった…おやすみ…」
 弟が寝ぼけ眼でふにゃふにゃ答えるのを笑って寝かしつけ、ランプを消す。
 こんな穏やかな日が続けばいいと思う。
 …本当に。











どりーーーー夢ビィーーーム!