赤目リア





                                             



 もうすぐこの十二宮に、聖域への反逆者どもが集ってやってくる。
 聖域ではそれは「偽の女神」を担ぎ上げた青銅数名という噂になっていて、来る前から結構な大騒ぎ
に発展していた。雑兵さえ知るその話を、教皇勅命によって十二宮を固める守護者たちが知らないはず
もなく、皆やや呆れつつも興味津々といった様子だった。
 乙女座シャカは、この際青銅どもの存在などカケラほども憂慮していなかった。憂慮していたのは実
は隣人の動向であった。なんと、先日その青銅たちを征伐に行ったのは隣人であるところの獅子座・ア
イオリアだったからである。その前にも白銀が数人送り込まれ、そのことごとくが返り討ちにあったと
いう報告に教皇はしびれを切らせたらしい。青銅風情を葬るのに黄金が出向くなど、かつてない珍事だ
ろう。
 …しかも、アイオリアはその勅命を果たさず戻ってきてしまった。命令に背いたということより、ま
ず怒り狂って真っ直ぐ教皇の間に踏み込んで行ってしまう辺り、なんという救いようのない直情さだ、
とシャカは呆れた。
 血相を変えて処女宮をゆきすぎる隣人を、シャカは止めることはできなかった。というかその隙さえ
なかった。なのでやむを得ず後を追った。直情にすぎるアイオリアのことだから何か強い思いこみをし
て、真っ向から教皇と対峙してしまうことになりかねない、と懸念したのだ。
 そうして、そんな予想は当たるものである。
 教皇の間では、シャカが想像した通りの悪夢が描かれていることに慄然とし、思考するより先に彼の
身体は動いていた。およそ乙女座らしくない行動だった。
 それでも、最悪の事態だけは避けられたように思えるのは救いだろうか。
 少なくとも乙女座がもっとも恐れていたこと──教皇自らの手で獅子座が(射手座のように)反逆者
扱いされ、誅殺命令が出ることはかろうじて免れた。
 …現段階では、それだけは。




 騒ぎの静まった広間で、教皇は、茫然とする乙女座に傲然と命じていた。
<シャカよ。アイオリアは邪念を捨て、再び余と聖域に忠誠を誓った。獅子宮まで連行せよ>
 さすがにあっけにとられたシャカが不審げな表情を向ける。が教皇はまったく動じない。
<…は…しかし…>
<本来ならその場で反逆罪を申し渡し誅殺するところを寛大な心で見逃してやった。そなたはそれが不
満か? よもや闘いに水を差されたなぞとそこの獅子のようなことを抜かすか?>
 シャカは、珍しく言いよどんだが、覚悟を決めて尋ねる。
<では、アイオリアが今度こそ逆賊をうち倒した暁には、貴方の支配は解けましょうか?>
<無論だ。それにそやつが己の良心に恥じぬよういくらかは正気も残してやっている>
 それは彼を苦しめるためではないのか。シャカは危うく口答えしそうになって、かろうじて喉の奥に
留めた。聖域で処女宮を守護して約十三年間、これほどまでに現女神代行者を疑いの目で見たことはな
かっただろう。
<…乙女座シャカ、獅子座アイオリアを宮まで連行致します。これにて>
 シャカは、アイオリアに肩を貸すような形でその場を退出した。
 何かが…何かが起こっている。大いなる神の手によって試練を与えられるがごとく。



 獅子座が教皇の間にのりこんだそのとき。
 シャカは、教皇に対して逆上し完全に臨戦態勢に入っていた隣人を、止めに入ったのだ。もう少し早
く駆けつけていればそもそも教皇に殴りかかる前に制止できたのだが、あいにく彼の後を追いながら、
他の黄金たちをさりげなく牽制する方が忙しかった。シュラやアフロディーテは教皇に対してとりわけ
忠誠心(?)篤く、アイオリアの激昂ぶりに不審どころか完全に敵対扱いしていたのだ。
 その場では勢いに押されて(多分さっきのシャカのように)うっかり通したものの、やっぱり逆賊の
弟は逆賊だとぼやいて後を追おうとしていた。だが怒りで頭に血が昇った獅子ほど手に負えない相手は
居ない。そしてそれを止められるのは自分だけだろう。猛烈に辛辣極まりない台詞で二人をその場にと
どめおき、乙女座は急いで教皇の間へ向かった。強大な小宇宙がふたつ、またたく間に燃焼し始めたの
を感じた。
 シャカが飛び込んだのは、教皇を護りたかった訳ではなくむしろアイオリアを助けるためだった。千
日戦争に突入してしまう恐れが十分にあったが、状況が不透明な今、確たる証拠もなく教皇に拳を向け
ることだけは避けたかったのだ。
…だが、まさか…。
「幻朧魔皇拳…」
 アイオリアはよりにもよって自分と対決時に教皇によって操り人形と化してしまった。教皇が、まが
りなりにも黄金に対してここまで強硬な手段を取るとは。しかし、理屈はどうあれ、現・最高責任者に
意義を申し立てられる者はいない。…女神以外には。
 それほど教皇とは絶対服従の相手なのだ。
「…愚かな…リアよ」
 シャカは、隣人を獅子宮のプライベートエリアまで送ってやった。彼は殆ど意識もなく、時折頭をか
かえて苦しそうに呻くばかりだった。
「…何故教皇の間に乗り込む前に、我ら黄金に少しでも話そうとは思わなかったのか」
 聖衣を外してやり、ぐったりとした逞しい身体をベッドに横たえてやる。
 シャカは柄にもなくため息をついた。自分で自分の行動が心底不思議だった。何故この獅子に対して
はこれほど親身になってしまうのか。放っておいてもよかった筈だ。…だが何度思い直しても、この獅
子座が逆賊として誅殺されることを正気で見ていられる自信はなかった。それならまだしも自分が相手
になった方がマシというものだ。
「…せめてもう少し、状況が見えれば…」
 一時の不確かな情報や感情で己が乱されることこそシャカは不本意だった。教皇はなるほど少し得体
の知れない部分はあるが、通常業務では神の化身のごとく清らかな人物なのである。
 偽女神のことが気に掛からない訳ではない。ここ数年、いよいよ女神神殿から感じる大いなる小宇宙
が陽炎にも等しく、女神が十二宮の奥深くではなく、実は別の場所で目覚めているという噂も今や笑っ
て聞き逃せなくなっている。
 しかし、聖域の存在を知り、かつその支配を狙う勢力は数知れずあって、外界からやってくる人物を
「それっぽい」からといって易々入れることができないのもまた事実だった。
「女神がお目覚めになっておられるならもっと確かな小宇宙を感じる筈…」
 だが、さすがに気まぐれな神のこと。それともまだ現世での肉体を制御しきれていないのか。女神の
小宇宙は相変わらずはっきりとはしなかった。それさえ掴んでしまえばもっと事態は透明になるだろう
に…。
 シャカは、しかめつらしい顔で友人の額辺りをそっと撫で、そして踵を返した。
 既に聖域全体には非常令がはられ、十二宮の守護者たちは全員残らず宮から動くな、という厳命が下
っている。自宮に戻らなければならなかった。



 夕暮れ時。
 シャカは瞑想を断ち切って自宮から出た。聖衣は目立つので纏わなかった。
(そういえば、アイオリアが日本から連れ帰った白銀の女聖闘士が居たな…)
 シャカは夜のうちに十二宮を降り、その女聖闘士の居所を探すことにしたのだ。もちろん動くなとい
う教皇の命には逆らうことになるがそんなことは知ったことではない。要は宮が守護できればいいだけ
の話。そしてそれに関しては十二宮の誰よりも己の宮が強固であると自負している。
(…どうかしているのかもしれんな…私は)
 むしろ、そんなにしてまでアイオリアの挙動の原因を突き止めたいと考える自分自身が不思議でなら
なかった。偽女神の情報がそれほど気にかかるか。いや、むしろアイオリアがあそこまで逆上するとし
たら、よほどのことが日本で起こったとしか言いようがない。それを確かめたい。
 教皇を疑いたくない。違うと信じたい。まるで神の化身のように清らかで優しい教皇。その偉大な小
宇宙を幾度となく間近にし、年輩者として尊敬していた。だが、今日の教皇はどう控えめに見ても邪悪
な執政者そのものだった。…何が起こっている? あの優しい教皇は何処へ?
(教皇が…教皇そのものが操られている、とか…)
 だがそれは真っ先に否定したいことだった。聖域の第一統括者が何者かに操られているなどと、たと
え冗談でもあってはならない。もしそれが真実であったなら聖域は内側から崩壊してしまう。
(教皇のことは女神に見極めて頂くしかない。つまり、女神が目覚めてくださればよいのだ。…それま
で待つしかない)
 教皇は教皇でさて置き、女神の目覚めもまた待つのみ。となると、手近に解決できそうな問題は、ア
イオリアの見た「何か」だけだ。もしかしたらそこから全ての謎が紐解かれるかもしれぬ。
 いつもだったらなりゆきまかせで己から行動を起こすことなど有り得ない乙女座が、滅多にない健気
な決意を固めて石段を下りる。が、思いもかけず手前でそれは阻まれた。
「アイ…オリア…」
 幻朧魔皇拳を受け、操り人形と化した筈の獅子座が獅子宮の前、石段の真ん中で立っていた。
「…どうしたのだ、そんなところに立って」
 シャカは務めて平坦な声を出す。僅かでも動揺していることを気取られたくなかった。彼にかけられ
た精神支配がどのような類のものであるかは詳しく知らないが、下手をすれば一挙一動がすべて教皇に
筒抜けになる。
 アイオリアは、幽鬼のようにぼんやりとただ立っているだけに見えた。シャカは少しの間注意してそ
れを観察し、どうやらこちらの言ったことを認識していないと見極めると、さりげなくその横をすり抜
け通ろうとした。
「…ッ!」
 が、脇を通った瞬間ぬっと手が伸び、勢いよく引き寄せられた。まったくの不意打ちで、シャカは抵
抗する間もなくアイオリアの腕に抱きすくめられる。
「…獅子宮を断り無く通る者は…誰であろうとこのアイオリアが許さん」
「何をバカなことを!」
 思わずうっかり叫んでから、シャカはこの隣人が極めて特異な幻惑にかかっていることを思い出し、
苦しげに眉をひそめた。
(そうか、そういうことか。宮を通り抜ける者は例外なくすべて阻む、と)
 十二宮は今厳戒態勢に入っており、それぞれの宮の主は絶対に動かぬよう命令が下っている。教皇自
らが伝令でも飛ばさぬ限りこの石段を行き来する人間は居ない、という想定なのだ。
(この私としたことが…こんな単純な見落としをするとは…)
 教皇は、おそらく自分を含めて殆どの黄金を疑ってかかっている。それはつまり、限りなく己自身が
「クロ」であるというなによりの自衛意識だ。いつ寝返るか判らない、と守護者たちをも恐れていると
いうことなのだ。
「…リア…ッ…離せ…私だ…乙女座のシャカだ…」
 アイオリアの指が、薄衣一枚のみの彼の細い肩をきつく掴んでいる。言って判る相手ではないと承知
していても、やはり声をかけずにはいられなかった。
「リア…!」
 これなら異次元を通って一気に聖域を抜ける策の方が良かったのか。しかし通常時ならいざ知らず、
この厳戒態勢下で一人の黄金にも悟られずに小宇宙を燃やすことなど例えシャカでもできはしない。そ
れならば気配を殺して生身で下っても危険は同じ。障害になるのはせいぜいが巨蟹宮だけだと思ってい
たのに。
「…ッ…う…」
 凄まじい力で肩を掴まれ、骨が砕けそうだった。シャカはやむなく反撃に出ようとして、…だがまる
で血のように真っ赤な光を帯びたアイオリアの両眼を見た瞬間、あわてて力を鎮めた。
 教皇の言葉を思い出したのだ。
<そのままでも十分敵をくびり殺せるだろうが…お前の残虐性が発揮されるのは相手の一撃を受けた後
からだ…>
 一度スイッチが入ってしまったら最後、その相手が死ぬまでアイオリアは狂戦士と化す。そう教皇は
笑って言わなかったか。
 シャカは必死で対処を考えた。こんなときにこんなところで隣人ともう一度千日戦争をする訳にはい
かない。アイオリアは正気ではないし、今度こそこちらも手加減できないだろう。万が一にも自分がア
イオリアを殺してしまったら…想像したくもない。
 死ねば戻るというのならむしろ私が死ぬか? しかし阿頼八識に目覚めているとは言えこんな状況で
冥界に跳んでどうする。冥界は広く、遠い。生き返る時間設定まで自在にとはいかない。ハムレットよ
ろしくジュリエット役を演じたところで(笑)、目覚めてみれば全ては終わっていた、事態は最悪だっ
た、なんてことになったら間抜けにもほどがある。
「アイオリア…! 私だ! 判らぬのか…!」
 シャカの悲鳴のような言葉が、ようやく少しだけ正気のアイオリアを呼び戻した。はた、といきなり
目が覚めたみたいな顔で、シャカから手を離す。急に離されてシャカの身体はずるずるとその場にくず
おれてしまった。
「シャカ…何をしているのだ?」
「ようやく…気付いたか…遅すぎる…」
 乱れた息を懸命に整え、シャカは立ち上がる。アイオリアが驚きつつも手を貸してくれ、その腕にす
がってシャカはもう一度友人に向き直った。
 …目の色は、今は普通だ。が、またいつどんな弾みで赤く光るとも限らない…。
「リア。やむを得ぬ、正気でいるうちに少しは事情を話したまえ。日本で何があったのかね」
「シャカ…??」
「日本で誰に何を吹き込まれてきた。偽女神のことか。君はそれを見極めたのか」
 が、シャカの台詞に良くないキーワードが含まれていたのか、アイオリアは突然頭を抱えて苦しみ出
してしまった。シャカはそんな隣人を為す術もなく見守る。幻朧魔皇拳…かけた本人に解かせるか、で
なければ条件を満たす以外にない…。
「シャカ…ッ…離れてくれ…」
「リア…?」
 アイオリアは、震える手でシャカにしがみついた。茫然と立ちつくす乙女座に、獅子座は必死の思い
で訴える。行動とは逆のことを。
「離れてくれ…俺の前に立たないでくれ…お前を傷つけてしまう…」
 言いながらもアイオリアの手は再びきつくシャカの肩を押さえつけたまま離そうとはしない。シャカ
は閉口し、どうにかその腕をもぎ離そうとしたがシャカの力ではぴくりとも動かなかった。
「離れろと言いながら君の手が離さぬではないか」
「だから……ッ…ダメだ…俺の意志では…無い…」
 苦しげにひそめられたアイオリアの双眸は、それでもまだ青翠の色を保っていた。その翠が僅かに揺
らぐのを見て、シャカは心底ぎょっとする。この獅子座が…まさか苦しさに涙するとは。
「…リア…うあッ!!!」
 だから、おもいきり油断していた。アイオリアが億劫そうに頭を振ったその次の瞬間、きらりと彼の
腕が光った。もとより押さえ込まれていたシャカが避けられる筈もなく、鳩尾に痛烈な一撃をくらって
シャカは容易く意識を手放していた。




 酷い息苦しさにシャカが目を覚ます。誰かが己の上にのしかかっている、その体温と息づかいが感じ
られる。シャカは閉じたままの目でそれを確認した。
 この十二宮で、長い間もっとも身近で感じていた筈の小宇宙。…それが今日の教皇のようにどす黒い
気配に変じている。
「…リア…!?」
 アイオリアの瞳は邪悪な赤色に燃え光っていた。それも確認した。室内はとても暗く(知っている、
ここはリアの寝室だ)、窓辺から差し込む月明かりだけが頼りだった。
 そうして、シャカは自分が裸に剥かれ、同じく一切を脱ぎ捨てた友人に組み敷かれていることをよう
やく知った。そしてその友人の、猛る欲望も。
「…シャ…カ…」
 すっかり正気を無くしてしまったらしい獅子座は、それでも呪文のように名を呼んできた。そうして
きつくきつく抱きしめてくる。幻朧魔皇拳によって奪われたのは彼の自由意志であって、こんなことを
しでかす理由は無い筈だ。シャカは混乱の中で考えていた。
 教皇が、実は乙女座を罠にかけるために不埒な情欲を獅子座に植え付けた? そんなバカな。今のよ
うな状況になるにはまずシャカが命令を無視して「生身」で獅子宮を訪れる必要がある。そこまであの
時の教皇が読んでいたとはさすがに思えない。
 なにか彼の理性を奪うキーワードを自分は言った? アイオリアが命じられたのはあくまでも侵入者
を排除することであって…。
「シャカ…」
 熱っぽく囁かれ、抱きしめられてシャカは当惑した。理性を失って…? それは裏を返せばこの隣人
は元々このような願望を胸の内に秘めていたという意味ではないのか。
「ッ…!!」
 無骨な手が不慣れに、けれどとてつもなく熱心にシャカの素肌をまさぐり続ける。ぞわぞわとした悪
寒のような感覚が背筋をのぼってきて必死にシャカは声をかみ殺した。それでも、どうすればいいのか
判らず思考は無闇に空転しっぱなしで、抵抗もできずにただ震えてなすがままだった。
「リア…! 冗談はやめたまえ! 正気に…ッ…」
 本気で相手をぶちのめそうと思えば多分できる。だが、もし僅かでもダメージを与えて教皇言うとこ
ろの「スイッチ」が入ってしまったら、こんな恥ずかしい格好で千日戦争に突入する羽目になる。もち
ろん他の黄金たちにも気が付かれるし教皇にもバレる。互いに聖衣を着てしまえば誤魔化せるかもしれ
ないが…どのみちここまで忍んで来た意味はまるで無くなるだろう。
 …既にこの状況に陥った段階で、忍んできた意味などカケラも無くなってしまっているのだが。この
彼の腕を上手に振りほどいて下の宮に下がれるとは、シャカももはや思ってはいない。
(どうする…どうすれば…いい…)
 相手がもしアイオリア以外の誰かだったら。シャカは迷わず己にのしかかる男を完膚無きまでに吹き
飛ばしていたに違いない。だが、教皇の間でのときのように、シャカは何故か、絶対にこの獅子相手に
全力を出すことはできなかった。
 それどころか、例えば自分が冥界に行ってやってもいいと思うくらい(生きたまま行ける自信がある
からこその余裕ではあるが)彼を助けてやりたかった。この天上天下で己が最も神に近いと豪語する超
級に不遜なシャカが、…アイオリアだけは無条件に特別に想っていた。
 …だからこそ不快ではなく、ただ驚くばかりで。
「…シャ…カ…」
「ッ…うッ…!!」
「シャカ…好きだ…」
 はた、とシャカの思考が止まる。無意識下から絞り出された獅子の言葉に硬直したのだ。何と言った
何と。シャカは一瞬だけものすごい生真面目な顔で友人を見た。
 ───しまった。本当に…抵抗できない…。
「…ン…く…ッ…」
 何がどう衝撃だったかといえば。告白そのものよりも、むしろその言葉ひとつで本当に自分の身体が
動かなくなってしまったことだ。シャカは唖然としながらぱちくりと目を開けた。ついうっかり開けて
しまったので危うくアイオリアを吹き飛ばしそうになったが、それだけは咄嗟に制御した。
「…愚か者…こんな状態で言うとは言語道断だ…」
 半ば本気で怒りながら、シャカは結局そのまま彼の愛撫に応じてしまった。
 どうせ相手は幻惑の中だ。どのような戯れがあったとて、後でそれを覚えていることはあるまい。な
らば全ては夢。くだらぬ戯れの、ただの夢だ…。





 夜が白む頃、シャカはぐったりと疲れ切った身体で石段を登っていた。時間的に降りることはもう不
可能だった。少し自宮で身体を休め、気持ちも落ち着けてから、もうすこしマシな対策を練ることにし
なければ。
 …青銅たちがまもなくやってくる。もうそれほど日数もあるまい。
 下手をすれば今日・明日にでも…。
「バカめ…」
 シャカはぼんやりと呟き、ふと獅子宮を見下ろした。
 昨夜のことは一夜の夢。彼の告白も、また。
「バカめ、リア。わざわざ後から報せてやるほど、私は親切ではない…」
 しばらく黙って見下ろしてから、シャカはまたよろめきつつも歩き出した。身体を清め、瞑想をして
自分も昨夜のことは全て捨て去るつもりだった。













赤目リアといえば強姦風味(?)リアシャカだーと勝手に妄想してみたが自爆。てか誤爆。
超激弱々乙女なシャカになるでよ…ぎゃーありえねえーー><