体格差(余談)




 (ぬる〜いえっちい描写有り一応背後にはご注意!)

 まさしく問答無用!な怒りの小宇宙をはらんで教皇宮を後にしたシャカだったが、単独で帰す
のはどうも不安だとムウが付き添ってやった。まったくもって手間の掛かる乙女である。これで
実力は神に最も近いというのだからいっそ呆れる。
「シャカ」
 ムウが、常になく足早に石段を下りるシャカの後を追って隣りに並ぶ。
「あまり気にすることはありませんよ。あの男は確かに恐ろしいほど無神経で頭も悪いですが、
あれでも一応悪気は無いのです」
 辛辣極まりない言葉を当のアイオリアに聞かれなかったのは幸いだった。(たとえ当人を目の
前にしても多分この台詞をムウが濁すとは思えないが)
 シャカはつと立ち止まる。おや、とムウも止まった。
「…悪気が無いことは判っている」
 ムウはへえ、といった顔でシャカを注視した。
「あの程度のことでうっかり技をふるってしまったのは私の未熟故だ。もっともあれしきの技を
防げぬようでは黄金は務まらぬであろうから建築物損壊以外に謝る気は無い」
「…貴方に謝って欲しい訳ではありません。少なくとも私は」
 でも貴方のレベルで黄金を全員ひとくくりにされてもね、と内心で苦笑。
「むしろ、悪気がなくてもあの獅子には頭をすりつけて謝罪させたいくらいですが、それを私が
言うのは傲慢でしょうか」
 シャカは、やっと少し表情を和らげていた。
「…君にとってもリアの発言は腹にすえかねるところではないのかね」
 私と君はちょうど同じくらいだ、と言い添えるとムウも微笑した。彼にしてみれば、今更獅子
の暴言なぞ当たり前に過ぎて驚くにもあたらない。ポセイドンとの戦いにせよ、ハーデスの時に
せよ、何かにつけて獅子とは正面衝突してきた。「男とは認めん」発言も、実は未だに根にもっ
ていたりするアリエスである。
「まあ、いつも言いたい放題のようですから、あの莫迦獅子は」
「…そういう性格なのだ。許してやりたまえ」
 許すもなにも、始めに怒り出したのは乙女座の方なのだが、そういう傲慢な物言いがシャカの
シャカたる所以であろう。ムウも敢えてそれにはつっこまずにまた微笑だけを返した。
 その後、処女宮まで送ってやったムウは、にこりと優しい笑みでシャカの手を取りさりげない
風を装って言った。
「あの獅子に我慢ならなくなったら、いつでも白羊宮まで降りていらっしゃい。24時間受付フ
リーですからね」
 言われた側は、といえば、単純に獅子と今日のような口げんか(!!?アレが!?)を心配し
てくれているのだろうと思いこみ、軽く頷きを返す。
「言い争いで宮を壊したりはせぬよう気を付ける、すまない」
 言ったムウの方は、(まああんまり期待はしていないが)あわよくば野蛮な獅子の手から大事
な友人を取り戻したいと思ったまでのことで、シャカの無垢な答えに肩をすくめた。
 13年、という年月は重い。いくらシャカが厚意で時折ジャミールに顔を出してくれていたと
はいえ、獅子との交流にはまだとても叶わないのが実情なのだ。実際、あの獅子は自分の知らな
いこの乙女座の一面をむかつくくらい良く知っている。
 …が、相手があの莫迦獅子となれば叶わぬと知りつつも口を出したくなるのがムウの本心だ。
確かにあの獅子が連呼したとおり、シャカは一番小さい。しかも細い(自分よりも)。どうやら
獅子と肉体的に「一線」を越えてしまっているらしいと気付けば、それがシャカの望みならと目
も瞑ろうが、獅子に無体をされる乙女、という図式は非常に腹立たしい。
 まったく、あれほど小さい小さいと喚くくらいならばもっと気を遣ってやって欲しいものだと
ムウは全然別の方向にご立腹なのである。
「…貴方が、獅子座に劣っているとは一ミリも思っていませんが、体格差がうんぬん言う前にま
ず貴方はご自分の身体を大切にしてくださいね」
「??? うむ。断食はしていないぞ、最近は」
「………そうですね。いいことです」
 それ以上の問答は不毛だ。ムウは更に肩を竦めて打ち切った。じゃあね、と握った手をやっと
離してくるり、踵を返す。石段を下りていく友人の姿をシャカはしばしその場で見送った。




 半壊した会議室からガレキの山を全部運び出し、天井が開けてしまったその部屋から雨風にあ
てたくない書類やら小物やらを全部整頓して別室に移し終えたところで一日があっさり終わって
しまったアイオリアは、ミロやカノンと連れだって教皇宮を後にした。
 天蠍宮でミロと別れ、処女宮の手前あたりまで戻ってきたところで、カノンが呆れ半分に声を
かけアイオリアの足を止めさせた。
「おい、おシャカ様に謝っておけよ。後引かれると周り中がメーワクするんだから」
「…なんでお前にまでそんな忠言をされねばならん」
「何言ってんだ、こっちはいいとばっちりだ」
 う、と黙る獅子。今回は確かに自分の不注意な発言が明らかに乙女座を怒らせたのは自覚して
いたので、謝ることに関しては諦めがついていた。もっとも、下手に謝りすぎると却ってあの乙
女座は機嫌を悪くする。理不尽な妥協というものを、シャカは強烈に嫌っていた。そういう変な
ところでシャカは潔癖なのだ。
「しかしお前、ほんっとに男だな」
 カノンが意味深な視線でアイオリアをみやる。
 階段の中途で止まったアイオリアは、自分より数段高いところで立ち止まったままのカノンに
いぶかしげな表情を向けた。
「なんの話だ?」
「だから、今朝のお前の主張だよ。シャカを基準にしなくても、お前の目線が基準だと言えば済
む論理だろうに、わざわざアイツが一番小さい一番小さいと連呼して。要するに一番心配で一番
可愛いという無意識の発言だろアレ」
「かっ……かわ…いい…!!?」
 実際毎日そう思っているアイオリアだけに、咄嗟に返す言葉がない。
「背が低い、っていう表現じゃなかったよな口調的に。ちっこいんだろ、実際。お前の腕ん中に
収めちまうとさ」
「うっ…で…の中!!?」
「あんだけ年がら年中アリエスと言い争いしてるの聞いてて、誰も気が付かないとでも思ってん
のか? 気付いてないのは当のシャカくらいだぞ。…アレはなんつーか思考回路が規格外っつか
計り知れないから、もしかして全部承知でそらっとぼけてるって可能性もあるが」
 アイオリアはみるみる汗だらけになった。
 そうか、そういえばあえて自分とシャカとの仲を隠し立てしようという気がまったくなかった
が、実際のところ果たしてどのくらい露見しているのだろうか。まさか女神のお耳にまで…。
「それっ…噂とかに、なってるのか…? 俺と…シャカとのこと…」
「ばっか、わざわざ十二宮の外にまで触れ回るアホは居ないさ。特にサガはそういうの過敏だか
らむしろ必死で隠してくれてるだろ。まあお前の態度次第では雑兵どもにはいくらかバレてるん
だろうが、そっちもサガが圧力かけてるだろうし」
「そ、そ、そうか…」
 十二宮の仲間たちにはむしろ触れ回りたい気分のアイオリアだったが、さすがに外にまで露見
させたくはない。そこまで恥知らずではない…つもりだ。
「まあ、誰と誰、とは言わないがお前らのこととやかく言えない立場のヤツもいるしな」
「だっ誰だそれ!?」
 カノンは微笑。ふと、その笑みがサガと良く似ていて、こんなときだけああ双子だったな、と
改めて気が付いたりする。いつもはなんでこんなに違うのだ、と感心するのに。
「それを俺の口から言わせるのか? …俺は言わない。そんなの、どうでもいいことだろ。おま
えらみたく痴話喧嘩で他人を巻き込まない限り、な」
 言っとくが俺は違うからな、とカノンは付け足して、アイオリアの肩先をかすめつつ先に石段
を降り始めた。アイオリアはあわてて追う。ふと自戒の念が去来した。
(…俺は、もっと他人のことに気を遣うべきなのだ…)



 カノンと別れた後、アイオリアは処女宮でシャカを捜した。
 相当怒っているときは沙羅双樹の園に入ったきり数日出てこなかったり、はたまた巧妙に気配
を消されてしまったりもするのだが、今回は隠す気がないようであっさり見つかった。
 きちんと作り直された蓮の台座の…上ではなくその下で、ひっそりと座っている。瞑想をして
いる訳ではないようで、アイオリアが近づくと顔を上げた。目は閉じている。
「…あの、…シャカ。今朝のことだが…」
 アイオリアが覚悟を決めて口を開いた。シャカは、ちょっと眉をひそめたが、それほどもう怒
っていないようだ。黙って聞いてくれるらしい。
「…決してお前が他の者に劣っているという意味で言ったつもりはない。…が、不注意な言い方
だったと…思う。すまん」
「もちろん、このシャカが誰に劣るとも思っておらぬ」
 切って捨てるような答えはいつも通りだ。アイオリアはため息をついた。
「お前が小さいというのは、ただ、その、お前が…背丈が少しばかり…」
 言いながら、うっかりカノンのさっきの台詞を思い出して真っ赤になるアイオリア。確かに可
愛いと思って口に出していた。小さくて可愛くて細いのだ、と。
「だから…」
「リア。もう一度私を怒らせたいのかね」
「いやっそんなつもりは決して!」
 アイオリアは猛烈にあわてて首を振った。そして再びちらとシャカを見やると、シャカは驚い
たことに淡い笑みを浮かべていた。…怒ってはいないのだ!
「残念ながらいかなこのシャカでも、背丈までは自在にゆかぬ。この十二宮で私が童虎に次いで
低いというのは現実である。不平を言っても変えられぬのは判っている」
 だから、とシャカは付け足した。
「この件に関しては、不問だ。体格について私は以後不平はもらさぬ。もちろん度を超した発言
までをも許容することはできぬが」
 アイオリアは、そっと近づいてひざまずいた。白い頬に手を当てて。
「肝に銘じる。…ただ、判ってくれ。お前を小さいと感じるのは俺がただ、お前を可愛く、愛し
く思うからなのだ」
 シャカは、熱烈な獅子の告白にも動じた風はなく、軽いため息で応じた。
「…上手い言い訳を」
「言い訳ではない、本心だ」
「───そういうことに、しておこうか」



 その夜。
 珍しく獅子宮ではなく処女宮で夜を過ごすことにしたアイオリアは、いつにも増して恋人の身
体を熱心に貪った。どれほど撫で回しても飽きたらぬ象牙色の滑らかな肌を堪能しつつ、しみじ
みと感じいる。己と恋人との体格差を。
「…あ…ッ…ァ!」
 夢中でかき抱くとその細い肩は折ってしまいそうなほどで、あわてて力を緩めたりもして。
「ン! ゥ…リア…ッ…」
 身の内を焦がす情熱に衝動を抑えきれず、ついありったけの力で腰を揺さぶる。深々と繋がる
部位が湿った音を立てる度、普段の相手からは想像も出来ないほど艶やかで切ない喘ぎが零れ出
て、それが堪らなくて更に力をこめて突き上げる。
「あッ…ちょ…待っ…リア…!」
 必死で息を切らしつつ、シャカが制止の声を上げる。アイオリアはとりあえず一旦止まって少
し待ってやったが、シャカの青い目からぱらぱらと生理的な衝撃の涙がこぼれていることにずき
り、と胸をときめかせて懲りもせずまた腰を揺らしてみた。(情事の最中は初めから目を開ける
のが常だ)
「ああッ…!」
「どうした、もう限界か?」
 シャカはそれには答えず、ぺたりとアイオリアの胸に頬をくっつけた。なんとか息を整えよう
と苦心する様がまたとてつもなく可愛らしい。
 本当にこいつは小さい、とアイオリアは思う。仮にも170オーバーの大の男をつかまえて小さ
いもへったくれも無いとは判っているが、やっぱり獅子にとって乙女は「小さい」のだ。
 こんな風に、腕にかかえてしまえば細くて壊れてしまいそうで。
「…シャカ、もういいか?」
 多分呼吸を整えたかったのだろう。まだ大分弾む息で、けれど一応今度は頷いてくれた。限界
なのは自分だ。今にも弾けてしまいそうな己を制するので実はいっぱいいっぱいだった。
「ン! ァッ…あ!!」
 もう制止の声は聞かなかった。思う存分愛しい恋人の熱を共有し、それこそ声が枯れるのでは
というほど泣かせて、…そうして気が付いたら夜が白み始めていた。



「…参ったな…」
 アイオリアはくったりと気を失ったシャカを小脇に抱えて唸る。
「今日はコイツ、午前中に…約束があったと…言っていた気が…」
 どう考えても起きないぞ、と呟きつつ、しかしまあどうでもいいかと小柄な身体を抱え直して
アイオリアは毛布を被った。
 気が済むまで一緒に寝てやる、といういわゆる開き直りの態度であった。










体格差とゆーお題は本来これが狙いだ!というカンジで。しかしおいらは黄金全員で背比べっつのが
どうしてもやりたかったのだった。…あほー。代わりにちょっとえっちくしてみたのは反動?